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5.飲泉と吸入
<飲泉の医学的効果>

飲泉の医学的作用は全身作用と局所作用に分けられます。全身作用には温水による非特異的作用と各温泉成分に起因する特異的作用があります。局所作用には消化管に対する直接作用があります。
飲用では温泉成分が消化管より直接吸収されるため、疾患によっては飲用を避けるべき温泉水もあります。

1.全身作用
1) 非特異的作用
 温泉成分を含まない温水を飲むだけでも効能がみられます。温水(水道水)を飲用する
 と、コルチゾールの分泌量が増加します。温水の飲用が非特異的に副腎皮質機能を
 刺激した結果と考えられています。コルチゾールは副腎皮質から分泌され、糖、蛋白、
 脂質、骨の代謝を調節して、免疫・炎症反応を制御するなど多くの作用をもちます。
2) 特異的作用
 温泉に含まれる成分による独特の作用で、Na, Ca, Mg, Al, Fe, H, Cl, I, HCO3, CO2,
  SO4, S などが種々の機序で生体に影響を及ぼしてきます。
ナトリウム Na+
 ナトリウムを含む鉱泉の飲用により起立性低血圧(立ちくらみ)が改善してきます。
 食塩泉の長期飲用により、平均血圧は低下し、赤血球の元になる網状赤血球は
 増加し、赤血球容積(ヘマトクリット)は低下します。またナトリウムを含む温泉水の
 長期飲用により尿量が増加し腎排泄機能は改善してきます。
カルシウム Ca2+
 カルシウムを含む飲料水により心血管疾患や脳卒中の死亡率が低下するという疫学
 調査がありますが、関連がないという報告もあります。カルシウム飲用の健康への
 影響は結論がでていません。
マグネシウム Mg2+
 マグネシウムを含む飲料水により心筋梗塞、高血圧、脳卒中による死亡率が有意に
 減少するという報告があります。マグネシウム飲用には心血管疾患や脳血管疾患の
 予防効果があるとされています。
鉄 Fe2+, Fe3+
 鉄は赤血球の原料ですが、若年者では成長による鉄の需要が供給に追いつかず、
 女性では生理出血により、高齢者では癌等の消化管出血のため鉄が不足して貧血を
 引き起こします。含鉄泉の飲用で貧血は改善するが、温泉に含まれる鉄は微量のため、
 実際には貧血の改善効果は乏しい。
ヨウ素 I-
 ヨウ素含有泉の飲用では血清コレステロール値が低下することが報告されています。
 しかしヨウ素は甲状腺ホルモンの原料ですので、過剰に摂取すると甲状腺機能亢進を
 きたすので注意が必要です。
硫酸イオン SO42-、硫黄 S
 硫酸イオン含有泉の飲用により血清コレステロール値は低下すると報告されています。
 また硫黄泉や酸性泉の飲用で血糖値は低下する報告もあります。
亜鉛 Zn、クロム Cr、バナジウム V、リチウム Li
 亜鉛、クロム、バナジウムの飲用により血糖値は低下することが報告されています。
 リチウムは躁鬱病の治療薬で、認知症予防や神経細胞保護の作用もあるとされて
 います。リチウムを含む温泉水の飲用により緊張、不安、抑鬱、倦怠感が改善する
 可能性があります。

2.局所作用
1) 重炭酸水素ナトリウム泉 Na-HCO3、二酸化炭素泉 CO2
 重炭酸水素ナトリウム(重曹)を含む鉱水の飲用により胃液の酸性度は低下し、
 また粘膜保護作用もあるので胃炎、胃潰瘍、逆流性食道炎に効能があります。
 二酸化炭素泉は胃液の分泌亢進、胃腸の蠕動運動を促進します。
2) 塩化物泉 Na-Cl、硫酸塩泉 SO42-
 塩化物泉の飲用は胃液の分泌を高めて、腸の蠕動を促進します。硫酸イオンを含む
 温泉水は胆嚢収縮機能を改善し、硫酸カルシウムを含む温泉水は胃の運動機能や
 胆嚢の排出機能を改善します。
 硫酸塩泉(硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム)は腸の運動を促進し、慢性便秘に
 効能があります。

3.禁忌症
 温泉水中のイオンが過剰に吸収されると悪影響もでてきます。ナトリウムを含む
 温泉水は浮腫、腎疾患では禁忌です。ヨウ素を含む温泉は甲状腺機能亢進症では
 禁忌です。腎不全ではカリウムを含む温泉水は禁忌です。

4.飲用上の注意事項
 温泉水は時間経過とともに化学成分が変化し効力が減弱していきます。また雑菌
 が繁殖するおそれがあります。このため湧出した直後の新鮮な状態で飲むのが
 好ましいです。
  家に持ち帰って保存して飲んだり、料理に加えるのはおすすめしません
 飲泉の1回量は100-150mL、1日量は200-500mLです。また砒素、弗素、銅、鉛、
 水銀を含む温泉については各温泉の指定した飲用量を守ってください。
 強いアルカリ泉や酸性泉は適宜希釈して飲用してください。
 飲泉は一般に食事の30分前に行うことが望ましいです。

医療の進歩した現代では、飲泉には医薬品の効果を上回るほどの作用はありません。
補助的または代替的な手段として利用したり、温泉地に滞在したさいに飲泉を
味わったりするという理解で良いと思います。
簡単に言うと、医薬品>温泉>サプリメント、という位置づけです。

                  群馬県四万温泉の飲泉所(左から、塩の湯、清流の湯、日向荘)

      エアロゾル療法              飲泉療法        鼓室内通気法
                      (某ホテルのパンフレットから)
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5)飲泉や吸入療法について教えてください。

 温泉水を飲むことを飲泉といい、温泉水を吸入器で蒸気にして吸い込むすることを吸入といいます。飲泉や吸入は日本ではめずらしいですが、ヨーロッパではよく見かけます。日本のような入浴習慣がない外国では、温泉が入浴を意味するとは限りません。

 飲泉により胃粘膜の血流量が増加し胃腸疾患に良いとされていますが、薬ほど効果はない?ようです。また鉄泉は鉄欠乏性貧血に効くとされていますが、温泉に含まれている鉄の量は微量ですので効果はほとんど期待できません。

 吸入療法は喀痰の粘稠度を低下させて、喀痰を排出させやすくする方法ですが、蒸気を発生させる吸入装置が日本の温泉水(酸性泉や硫黄泉が多い)ではすぐに傷んでしまうので、あまり日本では実用的ではありません。

 気管支喘息では温泉の蒸気が刺激となって発作を誘発する可能性が高く危険です。特に硫黄の臭いは強いので、注意が必要です。
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     飲泉カップ各種 (某ホテルのパンフレットから)